大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

水戸地方裁判所 昭和49年(ワ)368号 判決

主文

一  被告らは各自原告に対し金一、二八三万二、六四二円および内金一、二三三万二、六四二円に対する被告関東鉄道株式会社は昭和四九年一一月八日より、被告関東交通株式会社は同年同月九日より各完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は原告勝訴の部分に限りかりに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は、「被告らは各自原告に対し金二、九二二万二、三〇六円および内金二、八八二万二、三〇六円に対する本訴状送達の日の翌日より完済まで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

一  原告は昭和四六年五月一〇日午前七時一五分ごろ栃木県芳賀郡益子町大字大沢四七番地の七、一二三号国道上において被告関東鉄道株式会社(以下被告関東鉄道という)の従業員訴外荻谷清司運転の観光バス(茨22あ46号)(以下A車という)と被告関東交通株式会社(以下被告関東交通という)の従業員訴外荒井敏勝運転の車両(茨いう143号)(以下B車という)が衝突事故を起した際、A車に乗車していたため、頸椎椎間板損傷等の傷害を蒙つた。

二  被告関東鉄道はA車の、被告関東交通はB車の各保有者であるから、いずれも自賠法三条による損害賠償責任がある。

三  損害

1  逸失利益 金二、九九〇万二、三〇六円

原告は本件事故当時岩間町立第二小学校の教員をしていたが、本件受傷による頸部バレーリユー氏症状を主体とする神経症状等の後遺障害により三年間特別休職扱いになつていたところ、特別休職は昭和五〇年七月には切れてしまつたため、同年七月より、担任なしで国語一科目だけを教えることを条件に一年間だけ復職し、給料として金三六六万二三四四円を受領した。しかし、原告は既に退職勧告を受け、昭和五一年度からは教職の地位の保障はない。原告は前記後遺障害により学務が相当程度制限されることは明らかであり、その労働能力喪失率は五六パーセントである。そして、原告は昭和五〇年三月で満四五歳であつて、就労可能年数は二二年となるから、右所得の五六パーセントを基準にしてホフマン式計算法により逸失利益の現価を算出すれば金二、九九〇万二、三〇六円(円未満切捨)となる。

(3,662,344円×0.56)×14.58(22年の係数)=29,902,306.29円)

2  慰謝料 金三〇〇万円

原告は本件受傷治療のため入院約一二ケ月、症状固定まで約二年六ケ月を要し、いまなお自賠法施行令二条による後遺障害等級第七級に該当する後遺障害を残して現在も治療を続けており、その精神的、肉体的苦痛は測り知れないものがあり、これを慰謝するには金三〇〇万円が相当である。

3  弁護士費用 金五〇万円

原告は被告らが本件事故によつて原告に与えた損害を任意に賠償しないので、やむなく原告訴訟代理人に本訴提起を委任し、着手金として金一〇万円を支払つたほか、第一審判決時に報酬として金四〇万円を支払うことを約した。

4  損害の填補

以上損害額合計金三、三四〇万二、三〇六円となるところ、原告は自賠責保険金四一八万円の給付を受けたので、残損害額は金二、九二二万二、三〇六円となる。

四  よつて、原告は被告らに対し金二、九二二万二、三〇六円および内金二、八八二万二、三〇六円に対する本訴状送達の日の翌日より完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、

被告関東鉄道の免責の抗弁事実を否認し、消滅時効の抗弁に対する再抗弁として、「原告は同被告に対し昭和四九年五月四日付内容証明郵便をもつて本件事故による損害賠償を催告し、該郵便は同年同月六日同被告に到達したところ、右到達日より六ケ月以内である同年一〇月二九日本件訴訟を提起したのであるから、これにより消滅時効は中断されたものである。」と述べ、

被告関東交通の本案前の抗弁は争うと述べ、消滅時効の抗弁に対する再抗弁として、「原告は同被告に対し昭和四九年五月四日付内容証明郵便をもつて本件事故による損害賠償を催告し、該郵便は同年同月八日同被告に到達したところ、右到達日より六ケ月以内である同年一〇月二九日本件訴訟を提起したものであるから、これにより消滅時効は中断されたものである。」と述べた。

被告関東鉄道訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として、

一  請求原因一の事実中原告がA車に乗車していたことは認めるがその余は否認する。ただし、A車のウインドガラスに原告の額が当つたことはある。

二  同二の事実中被告関東鉄道はA車の保有者であることは認めるが、その余は争う。

三  同三の事実中原告が自賠責保険金四一八万円の給付を受けたことは認めるが、その余は争う。殊に原告はいまだ失職しておらず、もしも退職するとすればそれは原告の自発的意思による。そして本件事故、本件受傷および退職との間には因果関係は存しないから、失職を前提とする主張は失当である。また、後遺症については未定であり、かりに原告主張の如き後遺症があるとしても、それによる労働能力喪失期間は七年程度に限るのが相当であるから、逸失利益についての請求が昭和五三年五月以降に及ぶのは失当である。

四  同四の主張は争う。

と述べ、抗弁として、

1  (免責)

本件事故はB車の運転者荒井の一方的過失によつて生じたものである。即ちA車の運転者荻谷は信号機のある本件交差点にさしかかつたが、黄色の点滅信号であつたから、注意しながら通過しようとしたところ、右側道路からB車が赤の点滅信号であつたのに一時停止をしないでA車よりも著しく早い速度で交差点を通過しようとしているのを発見し、危険を感じてハンドルを少し左に切つて急停止したところ、B車は右にカーブしてそのまま通過して行つたものであり、荻谷としては本件事故を到底さけることはできなかつたものであり、何等の過失もない。また、被告関東鉄道はA車の運行に関し注意を怠らず、A車に構造上の欠陥や機能障害もなかつた。

2  (消滅時効)

かりに、原告の被告関東鉄道に対する損害賠償請求権があるとしてもそれは本件事故発生の日である昭和四六年五月一〇より三年を経過した昭和四九年五月一〇日をもつて時効により消滅した。

と述べ、

原告の再抗弁事実中「原告主張の日にその主張の内容証明郵便が被告関東鉄道に到達したことは認める。」と述べた。

被告関東交通訴訟代理人は、本案前の抗弁として、「本件事故は栃木県芳賀郡益子町大字大沢四七番地の七、一二三号国道上で発生したものであるから、本件訴訟は水戸地方裁判所の管轄に属せず、宇都宮地方裁判所の管轄に属するから、本件訴訟を同裁判所に移送するとの裁判を求める。」と述べ、本案についての答弁として、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、請求原因に対する答弁として、「請求原因事実中被告関東交通の従業員荒井敏勝運転のB車が原告主張の日時に原告主張の地点を通過したこと、同被告がB車の保有者であることは認めるが、その余は否認する。B車はA車と衝突したことはない。右荒井は右地点(交差点)にさしかかつた際赤の点滅信号であつたので、一旦停車し安全を確認してから発車通過したもので、その運行に何等の過失もない。もつとも、右荒井は同地点の通過時に、左方約四、五〇メートル前方を進行していた「バス」が急停車する音を聞いたことはあるが、距離も遠いので、そのまま進行したものであり、右「バス」がA車であつたか否かは不明である。

また、B車は大形郵便車で、原告主張の当時郵便物集配等の職務即ち公務の遂行中であつた。従つて、かりにB車の運転者たる荒井に過失があり、そのため原告に損害が発生したとしても、右損害は荒井および郵政省関係において負担すべきものであり被告関東交通に責任はない。」と述べ、仮定抗弁として、「かりに、同被告に本件事故に基づく損害賠償責任があるとしても、原告の請求権は本件事故発生の日である昭和四六年五月一〇日から三年を経過した昭和四九年五月一〇日をもつて時効により消滅したものである。」と述べ、原告の再抗弁事実中「原告が被告関東交通に対し原告主張のような郵便で損害の賠償を催告し、該郵便が原告主張の日に同被告に到達したことは認めるが、その余は争う。」と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  被告関東交通の本案前の抗弁について

被告関東交通は本件事故発生地が宇都宮地方裁判所の管轄に属することからして、本件訴訟は同裁判所の管轄に属し、水戸地方裁判所の管轄に属さないと主張するが、右の理由から本件訴訟が宇都宮地方裁判所の管轄に属することはそのとおりであるが、財産権上の訴は義務履行地の裁判所の管轄に属するところ(民訴法五条)、別段の事情の存しない本件においては右義務履行地は債権者たる原告の住所地である茨城県東茨城郡内原町鯉淵二、九一六番地というべきであるから、本件訴訟は同住所地の裁判所である水戸地方裁判所の管轄にも属することは明らかであり、右管轄違の抗弁はその理由がない(なおまた、民訴法一条、二一条の規定からしても本件訴訟が水戸地方裁判所の管轄に属することは明らかである)。

二  本件事故発生の状況と被告らの責任

全当事者間で成立に争いのない甲第一号証、証人荻谷清司の証言によつて成立の真正を認める乙第一号証、本件事故現場付近を撮影した写真であると認められる乙第二号証の一ないし四、丙第二号証の三ないし八、成立に争いのない乙第三号証の一、二、証人松井敏男、同荒井敏勝、同荻谷清司、同福田一男、同小田倉茂の各証言(各一部)に原告本人尋問の結果を総合すれば、訴外荻谷は昭和四六年五月一〇日午前七時一五分ごろA車を運転し茂木町方面から宇都宮市方面へ向けて一二三号国道を進行し、栃木県芳賀郡益子町大字大沢四七番地の七付近の七井郵便局方面から益子町方面に至る県道との交差点の手前にさしかかつたところ、同交差点はA車に対しては黄色点滅信号を表示し、交差道路に対しては赤色点滅信号を表示していたが、進行道路と右県道との交差する右手前角に建物があつたため、右方(七井郵便局方面)に対する見通しはきかない状況であつたこと、ところが右荻谷は一応交差点手前で左右の安全を確認し時速四七・八キロメートルで右交差点に進入しようとしたこと、他方、訴外荒井はB車を運転し前記日時ごろ、七井郵便局方面から益子町方面へ向けて前記県道を進行し本件交差点の手前にさしかかつたところ、前記の如く県道即ちB車の進行道路に対しては赤色の点滅信号を表示していたが、その進行道路と交差する前記国道の左手前角に建物があつたため、左方(茂木町方面)に対する見通しはきかない状況にあつたこと、右荻谷が前記状況の下にA車を運転し、本件交差点に進入しようとしたところ、七井郵便局方面から訴外荒井がB車を運転し相当な高速度で本件交差点に進入して来たので右荻谷は衝突を回避しようとしてハンドルを左に切り、急ブレーキをかけたため、A車に同乗していた原告が同車のフロントガラスに額を強打して負傷したこと、以上の各事実が認められ(原告がA車に乗車していたことは原告と被告関東鉄道との間で争いがなく、訴外荒井運転のB車が原告主張の日時に、その主張の地点を通過したことは原告と被告関東交通との間で争いがない)、証人松井敏男、同荒井敏勝、同荻谷清司、同福田一男、同小田倉茂の各証言中右認定に反する部分はにわかに措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

しかして、被告関東鉄道はA車の、被告関東交通はB車の各保有者であることは全当事者間に争いがない。

以上の各事実によれば、被告らはそれぞれ自己のために自動車を運行の用に供する者としてその運行によつて原告に与えた傷害により生じた損害を賠償すべき責任があることは明らかである(もつとも、被告関東交通は本件事故発生は訴外荒井が大型郵便車であるB車を運転し郵便物集配等の職務即ち公務の遂行中のことであつたから、その過失により原告に生じた損害の賠償責任は右荒井または郵政省関係にある旨主張するところ、なるほど本件事故が右状況の下に発生したとすれば、右荒井または郵政省の損害賠償責任も考えられなくはないであろうけれども、だからと言つて、特段の事情の認められない本件においてはB車の保有者である被告関東交通の損害賠償責任を否定し去るわけにはいかない)。

三  そこで、被告関東鉄道の免責の抗弁について検討を加える。

本件事故発生の状況は前記認定のとおりであるところ、交差する道路の一方の信号機が赤色の点滅信号を表示し、他方の信号機が黄色の点滅信号を表示している交差点においては赤色の点滅信号を表示する道路を進行する車両の運転者(即ちB車の運転者訴外荒井)は所定の停止位置において一時停止する義務を負うことはもちろん、再度発進して交差点に進入するにあたつては交差道路上の交通の安全を十分確認し、交差道路から接近して来る車両との衝突の危険を回避するためその進行妨害を避けるなどの措置をとるべき義務のあるほか本件交差点はB車進行方向からみて交差道路左方に対する見通しがきかないのであるから(なお、点滅信号の表示されている本件交差点は交通整理が行われている交差点ではない)、本件交差点に進入するにあたつては徐行すべき義務があることはもちろんであるが、他方黄色の点滅信号を表示する道路を進行する車両の運転者(即ちA車の運転者訴外荻谷)においても他の交通に注意して進行すべく、殊に本件交差点はA車進行方向からみて右方交差道路に対する見通しがきかないのであるから、本件交差点に進入するにあたつては徐行すべき義務があるというべきところ、前記認定事実に徴すれば訴外荻谷は右運転上の注意義務を怠つたものと認めざるを得ないから、その余の判断をまつまでもなく被告関東鉄道の免責の抗弁は採用できない。

なお、被告関東交通においても自賠法三条但書の免責の抗弁を仮定的に主張するかの如くでもあるが、そもそも右免責の抗弁としては同条但書所定の要件をすべて主張すべき必要があるところ、同被告はこれを尽していないのみならず、前記認定事実に徴すれば、B車の運転者たる訴外荒井においても運転上の注意義務を怠つた過失があつたものと認めざるを得ないから、同被告の右抗弁もまた採用できない。

四  そこで、原告が本件事故によつて蒙つた損害の額について検討する。

1  逸失利益

原告本人尋問の結果によつて成立の真正を認める甲第二号証の一、二、四、弁論の全趣旨によつて成立の真正を認める同号証の三、成立に争いのない甲第四号証、第五号証の一、二、原告と被告関東鉄道との間においては成立に争いがなく、被告関東交通との間においては弁論の全趣旨によつて成立の真正を認める甲第二号証の五、第六号証に原告本人尋問の結果を総合すれば、原告は本件事故当時岩間町立第二小学校の教員として勤務していたが、本件事故により頸椎椎間板損傷等の傷害を受け、その治療のため、昭和四六年五月一四日より同年七月三日まで茨城県立中央病院に通院し(実日数四日)、水戸市斉藤医院に同年六月三〇日より同年七月六日まで通院し、その後同年同月七日より同年九月一八日まで入院し、さらに同年同月一九日より同年一二月三一日まで再び通院し、その後もしばらく通院していたが、昭和四七年二月二三日より同年九月二九日まで栃木県塩谷郡塩原町国立塩原温泉病院に入院し、昭和四八年一〇月九日より同年一一月三〇日まで前記斉藤医院に入院し、その後昭和五〇年一二月ごろまで自宅療養と通院治療を続けて来たこと、そして、昭和四八年一一月三〇日症状は固定したが、頸部バレーリユー氏症状を主体とする神経症状、腰痛、坐骨神経痛の後遺症があり、それは自賠法施行令別表後遺障害等級七級に該当すること、そのため、原告は公務傷害として昭和四六年七月より昭和五〇年七月まで特別休暇をとつて来たが、同月末までに復職しないと退職しなければならないため無理をして同月から復職し、担任を外して貰い国語一科目のみを教えているがそれも昭和五一年三月までのことで、同年四月からの身分の保障はないこと、原告は昭和五〇年分の給料として金三六六万二、二四四円を得たが、昭和五年三月一〇日生れであつて、昭和五一年三月現在で満四六歳となることが認められ、右認定に反する証拠はない。

ところで、原告はその職種からして就労可能年数を満六三歳までの一七年間とするのが相当であるところ、労働能力喪失期間は経験則上症状固定日の昭和四八年一一月三〇日より約一〇年余後である昭和五九年三月までと認め、かつ、労働能力喪失率を「労働能力喪失率表」に従い五六パーセントと定めるのが相当である。

以上の各数値を基準にしてホフマン式計算法(複式)により原告の労働能力低下による逸失利益の現価を算出すれば、金一、三五一万二、六四二円(円未満切捨)となる。

(3,662,344円×56/100×6,5886(8年の係数)=13,512,642円)

2  慰謝料

原告の本件受傷の部位程度、入通院期間、現在も頭痛、めまいがあり、精神的虚脱状態に陥ることもあること(原告本人尋問の結果による)、その他諸般の事情を考慮すれば、原告が本件事故によつて蒙つた精神的苦痛は金三〇〇万円をもつて慰謝せらるべきものと認めるのが相当である。

3  損害の填補

以上損害額合計金一、六五一万二、六四二円となるところ、原告が自賠責保険金四一八万円の給付を受けたことは原告の自認するところであるから(ただし、原告と被告関東鉄道との間では争いがない)、残損害額は金一、二三三万二、六四二円となる。

4  弁護士費用

弁論の全趣旨によれば、原告は被告らが任意に損害を賠償しないのでやむなく原告訴訟代理人に本訴提起を委任したことが認められるところ、本訴請求額、認容額、事案の難易、訴訟追行の状況その他諸般の事情を考慮すれば、原告が損害として請求しうべき弁護士費用の額を金五〇万円と定めるのが相当である。

5  よつて、原告が本訴において請求しうべき損害額は金一、二八三万二、六四二円となる。

五  最後に被告らの時効の抗弁およびこれに対する原告の再抗弁について判断する。

前記の如く本件事故発生の日は昭和四六年五月一〇日であるところ、本訴提起の日が事故日から三年を経過した昭和四九年一〇月二九日であることは記録上明らかである。

ところで、原告が被告関東鉄道に対し昭和四九年五月四日付内容証明郵便をもつて本件事故によつて蒙つた原告の損害の賠償を催告し、該郵便が同年同月六日同被告に到達したことは原告と同被告との間で争いがなく、また、原告が被告関東交通に対し同年同月四日付内容証明郵便をもつて本件事故によつて原告が蒙つた損害の賠償を催告し、該郵便が同年同月八日同被告に到達したことは原告と同被告との間で争いがないところであるから、結局原告は右各催告から六ケ月以内に裁判上の請求をなしたことは明らかであり、従つて、右催告により本件損害賠償債権の短期消滅時効は中断せられたものというべく、原告の再抗弁はその理由がある(なお、原告は本訴提起後昭和五一年三月二五日付請求の趣旨拡張申立書をもつて逸失利益額を増額し、請求額を拡張しているけれども、一個の債権の数量的一部についての訴の提起による消滅時効中断の効果は、一部についてのみ判決を求める趣旨が明示されていないときは債権の同一性の範囲内においてその全部に及ぶものと解すべきところ、本訴においては右趣旨の明示がなされていないことは訴訟上明らかであるから、前記消滅時効中断の効力は前記拡張請求部分にも及ぶものというべきである)。

六  以上の次第で、被告らは各自原告に対し金一、二八三万二、六四二円および内金一、二三三万二、六四二円(弁護士費用を控除した金額)に対する本訴状送達の日の翌日(被告関東鉄道については昭和四九年一一月八日、被告関東交通については同年同月九日)より各完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告の本訴請求は右の限度で正当として認容すべきも、その余は失当として棄却を免れない。

よつて、民訴法八九条、九二条本文、九三条一項本文、一九六条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 太田昭雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例